教室2:みんなのハーネスラーニング(2)/学習の参考例

 「みんなのハーネスラーニング」では、星野有史の著作物や福祉の課題からオリジナルの教材を開発し、あなたの年齢や問題、状況に応じた内容で学習プランを作成して実施するものです。個々人の状況で進めていくため、プログラムを標準化することはできませんが、もし、あなたの課題が「夢の実現」であれば、一つの参考例として2002年にネクストから発売された小学生向けの総合学習副読本『きっずセレクションpart1-小学生のためのアンソロジー』から加筆・修正した一部を紹介します。これは福祉をテーマにした国語教材の一環として、拙著『夢をくれた盲導犬』から「必ずつぎへのステップに」の説が「ふれあい、心と心」という項目に収録されたものです。その文章からあきらめない気持ちや社会の在り方、※の言葉を調べたり、盲導犬の歴史を知る等、それを分割して少しずつ学習していくことで「みんなのハーネスラーニング」の目的を実現していきます。

「必ずつぎへのステップに」  星野有史

 予定のショッピングも終わり、すでに午後の3時近くになっていた。昼食もまだすませてないため、食堂街で何か食べていくことにした。
 デパートの中で拒否されることはないと思ったが念のため「盲導犬といっしょなのですけれども、いれてもらえますか。」と、店の入り口で私達を出迎えたウェートレスにたずねてみる。「かまいませんよ。こちらへどうぞ。」となんの問題もなく親切に私たちをあいている席にまで案内してくれた。奥からマスターだろうか、男の人がとんで来て「ペットを店にいれてもらってはこまります。」と強い※口調で文句を言い、すぐに私たちは入り口へひきもどされてしまった。

 「犬といっても盲導犬です。私といっしょに、はいってよいことになっていると思いますが。」と理解してもらえるようにつとめてみる。だが、お店のかたの答えは※一方的で「保健所からきびしく注意されていて、犬は入れないようにと言われていますから、それはできません。」とこちらの言うことなどまったく無視した応答がくりかえされた。
 これ以上話をしても聞きいれてもらえるような店ではない。「それならけっこうです。」と、私もそのままひきさがってはならないと思い、レジの横に置いてある屋号のはいったマッチをもらい、いったん店を出た。
 その姿を見てか、すぐさま三、四人の男の人が私に近づいてきて「何かご迷惑なことでもありましたか。」と話しかけてきた。「いったい、この人たちはだれなのだろう。」と思い、ふしぎそうにしている私に「デパートの保安係りの者です。」と説明があった。「奥の部屋でゆっくりとお話しを聞かせてください。」

 「どうなさったのですか。」中から偉いのかどうかわからないけれども、おとなしそうな中年の男性が話を聞きにきた。私は先ほどの出来事をくりかえし説明した。ところが、かえってきた答えは逆で私の期待を裏切り、これまでの気持ちがさらに倍加してしまうものだった。
 「動物はいれられないことになっているのです。」と※平然とした態度で私につげるのだ。「盲導犬の場合は規則でも入店してよいことになっていると思いますが、確認していただけませんか。」※言を左右にされてこれ以上※らちがあかない。電話で問い合わせをするとのことで、私はしばらく待つことになった。

 「座席まで盲導犬といっしょにはいっていただいてもよろしいですね。」と電話で話している声が私の耳にまでとどいた。やっとのことでなんとか希望は受けいれられそうなようすである。「こちらのてちがいでまことに申しわけございませんでした。ことわったのはなんというお店ですか。」私は必ず質問されるだろうと予想して、もらってきたマッチを手わたした。
 「ぜひ、ご案内いたしますので、お食事をすませていってください。」とていねいに気づかっていただいたのだが、なんとなく食べる気持ちにはなれない。「今日はけっこうです。今度のときはよろしくお願いします。」私は、ふたたびおなじことがくりかえされないように、そのかたの名刺をいただき、責任をもって管理していただけるようお願いした。

 このようなトラブルがあると、その店をまた利用したいという気持ちはとうていおこってこない。しかし、私だけの問題ならそれですまされることかもしれないが、つぎに盲導犬を使用しているだれかが「前にこられたかたにも帰っていただきましたので。」と言われては、何回くりかえされても私たちの生活は広がっていかない。必ずつぎへのステップに少しずつでも道を開いていかなければ、現状を改善していくことにはつながらないのである。こうして私の手元には、何枚かの※因縁のある名刺が集まってしまった。

出展 星野有史 「夢をくれた盲導犬~ミントといっしょに生きる~」 ポプラ社

  • ※口調 話し方の調子。
  • ※一方的 自分の都合だけでするようす。
  • ※平然 平気なようす。
  • ※言を左右にする はっきりした返事をしない。
  • ※らちがあかない 物事にきまりがつかない。
  • ※因縁のある 出来事の原因に関係がある。

こんなことを読み取ろう!!

  • デパートの食堂街で「犬は入れられない」と入店を断られてしまった時の筆者の気持ちを考えてみましょう。また、あなたならレストランに盲導犬が一緒に入ることをどのように思うでしょうか。
  • デパートの管理責任者に説明をしても、やはり動物は飲食店に入れられないという同じ返事が返ってきたことを筆者は非常に悲しいと言っています。食事ができないことを悲しんでいるというよりも、盲導犬が社会に理解されていないことを悲しんでいるということを理解しましょう。
  • 筆者は、盲導犬が「仕事犬」であり、ペットとは違うことを強調し、目の不自由な人が盲導犬を連れてどこへでも出かけられるような生活ができるようになるためには、トラブルに負けていてはいけないという強い意志を示していることを確認しましょう。

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盲導犬の歴史

 盲導犬の訓練は今から90年近く前、ドイツに盲導犬学校が設立されたことに始まります。日本では、ドイツから輸入した盲導犬を戦争で目を悪くした人々に渡す制度がありましたが、第二次世界大戦で中断されてしまいました。戦後、日本でも盲導犬の育成が開始され、1957年にようやく日本で初めての盲導犬「チャンピー」が現在のアイメイト協会で育成されました。

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